2026年6月24日
皆さん、こんにちは。院長の小池です。今回はちょっと趣向をけて、消化器のお話ではなく、『睡眠』についてです。
今後こそペンギンは無関係でしょ。と思われたかもしれませんが、ちゃんとペンギンのお話もさせていただきます。
ところで、ヒゲペンギンというペンギンをご存じでしょうか?ペンギン類のうちでは中型で、個体数が最も多いペンギンで、このペンギンには驚くべき睡眠法があります。
2023年に発表された研究で、繁殖期のヒゲペンギンが1回平均約4秒という極めて短い睡眠、「マイクロスリープ」を繰り返しながら、1日約11時間程度の睡眠をしていることが報告されました。外敵から卵やヒナを守りながら生き抜くための、進化が生んだ特殊な睡眠様式です。
今回は、ペンギンの過酷な睡眠スタイルと人間の睡眠メカニズムを比較しながら、不眠症の根本原因である脳の「過覚醒」の正体と、エビデンスに基づく快眠へのアプローチを解説します。
・不眠症の本態は「眠れない」のではなく「覚醒し続けている」
人間の脳はヒゲペンギンとは異なり、「まとまった深い睡眠」を必要としています。近年の睡眠医学では、不眠症の重要な病態として「過覚醒(Hyperarousal)」という考え方が注目されています。
私たちの脳内では、覚醒を維持する物質(オレキシンなど)と、睡眠を促すシステム(GABAやメラトニンなど)がシーソーのようにバランスを取っています。しかし、ストレスや不規則な生活によって交感神経が優位になりすぎると、夜になっても覚醒スイッチが「ON」のまま固定され、入眠障害や中途覚醒を引き起こしてしまいます。
・人間に必要な「徐波睡眠(深睡眠)」
レム睡眠とノンレム睡眠といった言葉を聞いたことがありますか?眠りのステージの段階になります。入眠直後がレム睡眠、その後ノンレム睡眠といったリズムを繰り返します。人間の脳(大脳皮質)は高度に発達しているため、日中に酷使した脳をメンテナンスするのが、ノンレム睡眠の深い段階である「徐波睡眠(Slow Wave Sleep)」です。
この深い眠りの間に
・記憶の整理と定着
・脳機能の回復
・成長ホルモン分泌
・免疫機能の調整
などが行われます。
また近年では、脳内の老廃物除去が深い睡眠中に活発になる可能性も示されています。
つまり、人間にとって睡眠は単なる休息ではなく、「脳のメンテナンス時間」なのです。そのため、睡眠の「時間(量)」だけでなく「深い眠り(質)」がとれないと、心身の疲弊につながる可能性があります。
・脳の過覚醒を改善するために
それでは「睡眠の質」をよくするにはどうしたらよいでしょうか。
① ベッドを「眠る場所」に戻す
不眠症の方は、「ベッドに入る=眠れない」という条件づけが形成されていることがあります。
そのため不眠症の方は定時に寝床に行って、眠れないまま長時間ベッドで過ごすのではなく、眠気を感じてからベッドに入ることが重要になります。
①寝床に入って15分以上眠られず、寝られそうになければ、一度寝床から出る。
②ソファなど別の薄暗い場所で、リラックスしながら本を読むなどして過ごし、眠気が来たら再び寝床に戻る。
これを繰り返すことで、脳の過覚醒の条件付けを改善していきます。
これは認知行動療法(CBT-I)の中心的な考え方であり、良好な効果が期待できることが報告されています。ただし、寝られないからと言ってスマホをいじったり、ドキドキわくわくするような本などを読んだりはしないようにしましょう。
② 深部体温のリズムを利用する
人は深部体温が低下するタイミングで眠気が生じます。そのため、就寝1〜2時間前に40℃前後の湯船に浸かることで、一度上昇した深部体温が自然に低下し、入眠しやすくなります。
③ 身体から脳へ「安心」を伝える
脳の覚醒状態は身体の緊張とも密接に関係しています。
肩や首に力が入った状態が続くと、交感神経優位の状態が維持されやすくなります。
肩をすくめるように10秒間力を入れ、その後一気に脱力する「漸進的筋弛緩法」は、身体の緊張を和らげ、リラックスを促す方法として知られていますので、そういったストレッチも効果的と考えられます。
・眠れない夜ほど「むりに眠ろうとしない」
不眠症では、「眠らなければ」という焦りが脳の過覚醒をさらに強める悪循環を生みます。
野生のペンギンは、生存のために、マイクロスリープという特殊な進化を遂げました。しかし、人間はそんな特殊な睡眠は必要としてはいません。そのため眠れない夜は、「今は脳が少し興奮しているだけ」と少し気楽に考えてみてください。
それでも症状が続く場合には、一度お話をしにきてください。近年ではオレキシン受容体拮抗薬をはじめとした新しい治療薬も登場し、不眠症治療の選択肢は広がっています。
睡眠は健康の土台です。気になる症状が続く場合は、少しでも力になれればと思いますので、いつでも相談ください。
